ブログ

みぞおち(心窩部)が痛い・・・考えられる病気は?放っていてはいけないサインも

「みぞおちが痛い」「胃のあたりがズーンと重い」「食後にシクシク痛む」——そんな症状に心当たりはありませんか?

お腹の上の方、胸の下あたりの「心窩部(しんかぶ)」に痛みを感じたとき、それは単なる胃もたれかもしれませんが、重大な病気のサインであることもあります。

今回は、心窩部に痛みを感じた際に考えられる代表的な5つの疾患について、消化器内科医の視点から、一般の方にもわかりやすく解説します。特に多い「急性胃炎」についても詳しく触れていきます。

心窩部とはどの部分?

心窩部とは、左右の肋骨の下が交わる「みぞおち」と呼ばれる部分を指します。胃や十二指腸、膵臓(すいぞう)、肝臓など、消化器の臓器が集まる部位であるため、さまざまな病気の影響が出やすい場所でもあります。

そのため、心窩部の痛みは一概に「胃の不調」と断定せず、全身の状態や他の症状も考慮して診断する必要があります。

① 急性胃炎 〜最もよくある原因のひとつ〜

もっとも一般的に見られるのが「急性胃炎」です。ストレス、暴飲暴食、刺激の強い食べ物、薬の副作用、アルコールなどによって胃の粘膜が炎症を起こす状態です。

● 主な原因

  • ストレスや睡眠不足
  • アルコール、カフェインの摂りすぎ
  • 鎮痛薬(ロキソニンなど)の副作用
  • 細菌(ピロリ菌)やウイルス感染

● 症状

  • みぞおちの鈍い痛みや不快感
  • 吐き気・嘔吐
  • 食欲不振
  • げっぷや胸やけ

● 治療と注意点

急性胃炎は、安静と食事制限、必要に応じて胃薬(プロトンポンプ阻害薬やH2ブロッカーなど)を使用することで数日〜1週間ほどで改善することが多いです。ですが、胃潰瘍や胃がんと見分けがつきにくい場合もあるため、繰り返す症状がある場合や黒い便(タール便)を認めた場合は、内視鏡検査が推奨されます。

② 十二指腸潰瘍 〜空腹時の痛みが特徴〜

十二指腸は胃のすぐ下にある小腸の始まりの部分で、ここに潰瘍ができると心窩部に痛みが出ることがあります。

● 特徴

  • 空腹時や夜間に痛みが強くなる
  • 食後は一時的に痛みが和らぐことが多い
  • 胸やけやげっぷを伴うことがある

原因としてはピロリ菌感染や鎮痛薬の影響が多く、治療は主に除菌療法や胃酸分泌を抑える薬です。出血を伴うと便が黒くなったり、吐血したりすることもあり、早めの医療機関受診が必要です。

③ 急性膵炎 〜重症化に注意!命にかかわるケースも〜

膵臓(すいぞう)は心窩部の奥に位置し、消化酵素やインスリンを分泌する重要な臓器です。この膵臓が急激に炎症を起こす病気が「急性膵炎」です。

● 原因

  • アルコールの大量摂取
  • 胆石
  • 脂質異常症

● 症状

  • 強烈な心窩部の痛み(背中に響くような痛み)
  • 吐き気・嘔吐
  • 発熱
  • 重症化するとショック症状(血圧低下など)

急性膵炎は命にかかわることもある重大な病気なので、常に急性膵炎の可能性がないか頭に入れておく必要があります。急性膵炎を発症した人の90%以上で腹痛を訴えます。一方で、腹痛で医療機関を受診した人のうち、急性膵炎と診断された人は2~3%程度と決して多くはありません。ですので、腹痛の人全てに急性膵炎を判断するための精密検査(血液中の膵酵素測定や、腹部超音波、CTなど)を行うべきだとまでは言えません。

さらに詳しく知りたい時は、急性膵炎ガイドライン

④ 機能性ディスペプシア(FD)〜検査では異常がないのに苦しい〜

胃や腸の検査をしても異常が見つからないのに、「みぞおちが痛い」「食後に膨満感がある」といった症状が続く場合、「機能性ディスペプシア(Functional Dyspepsia)」と診断されることがあります。

● 特徴

  • 食後の胃もたれ、満腹感
  • 空腹時やストレス時の心窩部痛
  • 不安や睡眠不足が引き金になることも

明らかな器質的異常がないため、ストレスケアや生活習慣の改善、必要に応じて漢方薬や胃薬の服用などを行います。症状が慢性化しやすいため、丁寧な対応が求められます。

⑤ 急性虫垂炎(いわゆる「もうちょう」)〜初期は心窩部に痛みが出ることも〜

「虫垂炎(ちゅうすいえん)」、いわゆる「もうちょう」は右下腹部の痛みとして知られていますが、実は初期には心窩部(みぞおち)に痛みを感じることがあるのをご存じですか?

● 心窩部痛で始まる理由

虫垂炎の初期段階では、腹腔内の感覚神経が大雑把に痛みを感じるため、「みぞおちの不快感」「胃痛のような痛み」として認識されることがあります。その後、炎症が進行し、虫垂周辺に限局すると痛みが右下腹部へ移動するのが典型的な経過です。

● 症状の推移

  • 初期:心窩部〜へそのあたりの鈍痛
  • 数時間後:右下腹部に移動する鋭い痛み
  • 吐き気・微熱を伴うことも

● 診断方法

問診と腹部診察である程度予測できますが、確定には腹部のCTや超音波検査が用いられます。血液検査では炎症反応(CRPや白血球増加)も参考になります。

● 治療

最近は軽症例ではまず抗生剤による保存摘治療が行われることが多いです。繰り返す虫垂炎や虫垂に便の塊(糞石)がつまり、穴が開く(穿孔)のリスクがある場合には、虫垂切除術(手術)が行われます。

胃炎のせいで「胃が痛いだけ」だからじきに治るだろうと我慢を続けていると、炎症が進行して腹膜炎(命にかかわる状態)に至ることもあります。痛みが和らがない時は早めの受診が大切です。

 

⑥ 心筋梗塞・狭心症 〜消化器ではなく心臓の病気のことも〜

見逃してはいけないのが「心筋梗塞」や「狭心症」といった心臓の病気です。特に心臓の下壁に問題がある場合、心窩部に痛みを感じることがあります。

● 注意すべき症状

  • 締めつけられるような胸痛
  • みぞおちの痛み+冷や汗
  • 呼吸困難や動悸

「胃が痛いと思っていたら心筋梗塞だった」というケースも少なくありません。高血圧、糖尿病、喫煙歴などのリスク因子がある方は、消化器症状に見えても早めに心電図や血液検査を受けることが大切です。

 

心窩部痛は、放っておかずに医師へ相談を

心窩部の痛みは、軽いものから命にかかわる病気まで原因はさまざまです。「最近ストレスがたまっているだけかも」「食べすぎたからだろう」と自己判断せず、以下のような場合は早めに医療機関を受診しましょう。

 

● すぐに受診すべきサイン

  • 痛みがどんどん強くなる
  • 嘔吐や下痢が続く
  • 黒い便や吐血がある
  • 発熱、冷や汗、ふらつきがある
  • 胸が苦しい、呼吸がしにくい

特に中高年の方や、生活習慣病のある方は注意が必要です。

 

まとめ:症状を軽く見ず、必要なら内視鏡検査も検討を

心窩部の痛みは、単なる「胃の疲れ」から重大な病気のサインまで幅広く、正確な診断のためには医師の診察が必要です。原因に応じて、胃カメラ(上部消化管内視鏡検査)や血液検査、心電図検査などを受けることで、見逃してはいけない病気の早期発見につながります。

「最近、みぞおちが痛むことが多い」「なんとなく体調がすぐれない」と感じたら、一度医療機関で相談してみてください。

当院では、胃内視鏡検査を含めた消化器の精密検査を行っております。痛みの少ない検査や鎮静剤の使用にも対応していますので、ご希望の方はお気軽にお問い合わせください。

TOPへ