過敏性腸症候群(IBS)

過敏性腸症候群
(IBS: Irritable Bowel Syndrome))とは

過敏性腸症候群(IBS: Irritable Bowel Syndrome))とは通常行う検査(血液検査やレントゲン検査、内視鏡検査)で明らかな異常を認めないにも関わらず、お腹が痛くなったりお腹の調子が悪いと感じたりする時、過敏性腸症候群を考えます。過敏性腸症候群の特徴は、お腹の不調が何か月も続くことと、その不調が排便と関係していることです。
お腹が痛くってきて便秘や下痢になる、排便の回数が増減する、形が硬くなったり軟らかくなったりする時、過敏性腸症候群と診断します。
過敏性腸症候群は珍しい病気ではありません。日本人の約10%は過敏性腸症候群と考えられています。女性の方がかかりやすく、年を取るとともに減っていきます。命に関わるような深刻な状態になることはないですが、お腹の不調は生活の質を著しく落とすため、積極的に治療を行うべき病気です。

過敏性腸症候群の症状

排便異常の症状は人それぞれで、突然の強い便意に襲われる激しい下痢の場合は、電車やバスに乗れないなど、日常生活の質を大きく低下させてしまいます。過敏性腸症候群では腹痛に加えて便秘・下痢などの排便異常の症状が現れます。そして腹痛に伴う症状として便秘が多いものを便秘型、下痢が多いものを下痢型、便秘も下痢も起こるタイプを混合型と分類します。また、いずれにも分類されない場合は分類不能型と診断します。
お腹の痛みは自分自身が感じるものなので、感じ方は人それぞれです。痛いと感じる人もいれば、お腹が張る、満腹感があるなど、痛み以外の不調として表現する人も多いことから、痛みではなければ過敏性腸症候群ではないとは考えません。腹部の不快症状に加えて便秘や下痢を伴う時は過敏性腸症候群の可能性があります。
腹部の不調を感じる理由は、腸管の蠕動運動にあります。小腸や大腸は食べた物を消化・吸収し、残ったものを排泄するために肛門の方へ送り出す働きがあります。この、腸管の内容物を肛門方向へ送り出す動きを蠕動運動(ぜんどううんどう)と言います。蠕動運動は腸管の内容物による、腸管の拡張刺激の情報が神経を介して脳に送られ、脳が神経を介して腸を動かす指令を出します。この腸管→脳→腸管の情報伝達のやりとりが上手くいかないと、痛みを感じやすい過敏状態になります。痛み刺激に過敏な腸管ということで、「過敏性腸症候群」と呼ばれます。

下痢型

激しい腹痛と便意によって下痢が生じます。突然に便意が起こるので、通勤や通学が思うようにできず強い不安感を抱くようになります。この不安感がさらに症状を悪化させて外出することが困難になるケースも多く見られます。

便秘型

強い腹痛と便秘の症状に悩まされます。強くいきんでも排便しにくく、便が出たとしても小さくコロコロとした硬い便が少量出るだけで、排便後にすっきり出来ません。腸管の収縮運動が過剰に起こることで痛みが生じると考えられ、以前は痙攣(けいれん)型便秘と呼ばれることもありました。

混合型

お腹の不調に伴って、便秘や下痢を起こすタイプです。コロコロ便になる頻度が全体の25%以上かつ、水様便の頻度も25%以上のとき、つまり便秘にも下痢にも頻繁になってお腹の調子が悪いとき、混合型過敏性腸症候群と考えます。

分類不能型

便の形状変化が便秘にも下痢にもならないようなもので、便秘型・下痢型・混合型のいずれもにも当てはまらないとき、分類不能型と診断します。

過敏性腸症候群の原因

過敏性腸症候群の原因過敏性腸症候群は様々な原因によって発症することが考えられています。それは遺伝的な要因と環境的な要因が想定されています。
同じ環境で育つ双子で過敏性腸症候群の発症を研究したものでは、二卵性よりも一卵性の方が高い確率で二人とも過敏性腸症候群が発症します。つまり、生まれつき持っている遺伝的な素因は発症に関与していることがわかります。また、男性には下痢型が多く、女性は便秘型が多いというように、性別によって発症しやすいタイプがあることも遺伝的な要因があることを示しています。
環境的な要因としてはメンタルの問題があります。うつ病や不安障害といったメンタルの不調は過敏性腸症候群が発症するリスクになります。疲労や睡眠障害も関係があります。
また、感染症も過敏性腸症候群の発症と関係しています。急性胃腸炎にかかった後に発症することがあり、これを感染性腸炎後IBSと呼びます。

過敏性腸症候群の診断

過敏性腸症候群は、腹痛や腹部の不快症状があるか否かでまず疑います。過敏性腸症候群は腸に腫瘍や炎症などの明らかな異常を認めないにも関わらず、腹部の痛みが生じる病気です。したがって、まず腫瘍などの疾患がないことを確認することが必要です。
通常の検査として、血液検査や尿検査、腹部X線検査などで異常がないかを判断します。また、通常の検査結果や臨床症状から必要と判断した場合は、大腸内視鏡検査を行います。これらの検査で異常を認めない場合に過敏性腸症候群を疑います。
そして、

  • 腹痛が最近3か月のなかの1週間で少なくとも1日以上を占めること
  • 腹痛が以下の3つのうち2項目以上に該当する
    1:排便に関連する
    2:排便頻度の変化に関連する
    3:便形状(外観)に関連する

これらを最近3か月間で満たしており、また少なくとも診断の6か月以上前から症状が出現しているとき、過敏性腸症候群と診断します。
過敏性腸症候群は、腹痛が便秘と下痢のどちらに関連するかによっていくつかのタイプに分けることができます。

  • 便秘型:硬便(兎糞状便)が25%以上で、軟便(水様便)が25%以下
  • 下痢型:軟便(水様便)が25%以上で、硬便(兎糞状便)が25%以下
  • 混合型:硬便(兎糞状便)も軟便(水様便)も25%以上
  • 分類不能型:便形状の異常が便秘型、下痢型、混合型のいずれも満たさない

大腸内視鏡検査について

過敏性腸症候群の治療

過敏性腸症候群の治療過敏性腸症候群の症状を和らげるために食事や運動などの生活習慣を見直すことはとても大事です。生活習慣の見直しとともに薬物治療を並行して行い、日常生活を過ごしやすくするようにしていきます。

食事療法

一般的な食事指導として規則正しく食事と十分な水分摂取は大事です。そして、症状が出現しやすい食事が明らかになっているので、食事の際に摂りすぎないように注意します。症状を悪くしやすい食事として、

  • 脂質・・十二指腸に脂質が流入すると症状が悪くなる
  • カフェイン・・直腸の運動を刺激する
  • 香辛料・・カプサイシンが灼熱感や痛みにつながる
  • 牛乳、乳製品・・特に乳糖不耐症があると下痢につながりやすい

があります。まずこれらの食事を控えてみましょう。それで体調が良くなれば、食事が腹部の不快症状と関連していると言えます。その後少しずつ食事を戻していき、どの程度であれば日常生活に支障が出ないかを見極めましょう。個人によって食事の適量は違うため、どの食品をどの程度控えるのが最適なのかは個人差が大きいです。

また最近ではお腹の中で発酵しやすい食品を控えることで、腹痛が抑えられることがわかっています。このような食品のことを、英語の頭文字をとってFODMAP(フォドマップ)といいます。
Fermentable:発酵性の
Oligosaccharide:オリゴ糖
Disaccharide:二糖類
Monosaccharide:単糖類
And
Polyol:糖アルコール

FODMAPを多く含む食品としては、小麦、玉ねぎ、豆類、リンゴ、牛乳、ヨーグルト、はちみつ、キシリトールなどがあります。これらの食品に含まれる発酵性の糖質は、大腸に入ると腸内細菌によって速やかに発酵、分解されます。その過程で水素ガスやメタンガスが発生することや、腸内に水分が引き込まれることで腸壁が刺激され、お腹の痛みや膨満感、下痢症状が出ると考えられています。
つまり、一般的に腸に良いと考えられているような食事によって、腹部に不快症状が生じる方がいるのです。過敏性腸症候群の有病者は人口の2割くらいと推定されているため、10人中2人は「腸に良い」と思っていた食事で、逆に不快症状が出現する可能性があります。
どの程度のFODMAPを摂取すると腹痛などの症状が出現するか、あるいは日常生活に制限が生じるかは、人それぞれです。FODMAPと腹痛や膨満感が本当に関係しているかを調べるためには、一度完全にFODMAPを制限することが一番確実です。FODMAPを制限した結果症状が改善することがわかった後に、少しずつFODMAPを含む食事を再開していきましょう。その際は良く食べる食材(玉ねぎなど)や食べたい食材(パンやパスタなど)から少しずつ試してみるのが良いと思います。

運動療法

適度な運動は過敏性腸症候群の症状を和らげます。また、嘔吐やげっぷ、満腹感、だるさ、胸やけなどの症状も改善します。ヨガやウォーキング、エアロビクスなどの運動は症状を改善することがわかっています。定期的に運動をすることは精神的ストレスを軽減することにも役立ちます。過敏性腸症候群はストレスとの関係も指摘されているため、ストレスを軽減するためにも運動をすることはお勧めです。

生活習慣の改善

生活習慣を見直すことによって過敏性腸症候群の症状が和らぐことが期待できます。飲酒(1日にビール240ml以上やワイン120ml以上など)では下痢症状を悪くさせますが、それ以下では症状が悪くならなかったという研究報告があります。お酒の飲みすぎは明らかに良くないですが、少量の場合はあまり気にする必要はないようです。ただし、お酒を飲んだから症状が良くなることはありません。喫煙に関しては症状が良くなることも悪くなることもないようです。
睡眠については、睡眠障害がある人の方が過敏性腸症候群になりやすいことがわかっています。しかし、睡眠障害が改善したからといって、症状が軽くなるか否かははっきりしていません。
このように、飲酒や喫煙、睡眠の習慣を見直すことによって過敏性腸症候群が良くなるかはまだはっきりしていません。

薬物療法

つらい排便異常によって、日常生活に支障を及ぼす場合は、薬物療法を用いて症状を緩和させていきます。当院では、患者さんの症状をはじめ、日常におけるお悩みにも留意して薬剤の処方を行っています。必要に応じて、短期間の抗うつ薬・抗不安薬を処方することもあります。市販薬では効果が得られない場合にも有効となる薬剤も豊富にあります。さらに、漢方薬や乳酸菌・酪酸菌製剤などの処方も行っています。薬物療法において、ご要望がありましたら、お気軽に当院にご相談ください。

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