逆流性食道炎

逆流性食道炎とは

逆流性食道炎とは食道は食べ物を胃に送る器官であり、基本的には一方通行です。食べ物が通る時以外は食道と胃の間にある食道括約筋によって閉じられ、胃の内容物が逆流しないようになっています。胃から食道へ逆流を防止するメカニズムが破綻し、胃酸や食べ物が逆流することを胃食道逆流といいます。胃は胃酸から粘膜を守る防御機能が備わっていますが、食道にはそのような防御機能がありません。そのため胃食道逆流によって食道粘膜に障害が生じることがあり、これを逆流性食道炎といいます。
胃食道逆流が起こる理由は、逆流を防止する食道括約筋が緩むことと、食道括約筋の圧よりも強い腹圧がかかることです。例えば、胃の一部が食道側へ飛び出す病気に食道裂孔ヘルニアがあります。食道裂孔ヘルニアがあると括約筋が上手く働かないため逆流しやすくなります。
なお、食道粘膜に障害がなくても胃食道逆流によって、胸やけなどのわずらわしい症状が出ることがあります。これを「非びらん性逆流症」といいます。

症状

逆流性食道炎でよくある症状は、胸やけと呑酸(どんさん)です。胸やけは胸骨の後ろあたりで焼けるような感覚があること、そして呑酸は胃の内容物や胃酸が逆流して口の中やのどまで上がってくる感覚のことです。
このような典型的な症状以外にも、様々な症状が起こり得ます。例えば、心臓に狭心症が起こったのではないかと思うような胸痛や、咳が出ること、喘息、歯が酸によって溶けることが起こることがあります。また、咽頭炎や副鼻腔炎(いわゆる蓄膿症)、肺線維症、そして繰り返す中耳炎が逆流性食道炎と関係している可能性があります。

原因

原因逆流性食道炎は、胃酸や胃の内容物が食道に逆流しやすくなると起こります。食道と胃の境界には逆流を防ぐためのメカニズムがあり、食道の方が胃よりも圧が高くなっています。しかし、食道の周りの括約筋が緩んだり、お腹の圧が食道よりも高くなったりすると逆流しやすくなって逆流性食道炎となってしまいます。
逆流性食道炎を招きやすいこととして以下のことが考えられています。

激しい肉体運動

30分以上のジョギングなどの適度な運動は逆流性食道炎のリスクを下げると言われています。しかし、最大心拍数に迫るような激しい運動は酸を逆流させます。筋力トレーニングでも酸の逆流が生じることがあります。

多量の脂肪摂取

脂肪を摂取すると、十二指腸からコレシストキニンというホルモンが分泌されます。このホルモンは食道括約筋を緩める作用があります。すると食道の圧が下がり、胃から逆流しやすくなります。

食べすぎ、飲みすぎ

胃の中に飲食物が一度に入ると胃が伸びます。この伸展刺激が一過性に食道括約筋を緩めるため、逆流しやすくなります。また、食後はそもそも括約筋が緩みやすいので、寝る前に食事をすると、括約筋が緩んだ状況で寝ることになります。結果として長い間食道が酸にさらされるため逆流症状が出現します。

肥満、円背、食道裂孔ヘルニア

肥満や高齢化に伴う円背はお腹の圧が高くなりやすいため、逆流症状が逆流性食道炎を誘発します。
食道裂孔ヘルニアは胃が食道側に飛び出す病気です。胃がはみ出しているため、食道が胃酸や内容物に暴露されやすくなります。そのために食道に炎症が起こりやすくなります。

その他

ストレスや睡眠不足は食道の知覚過敏を招くため、胸やけや呑酸などの逆流症状を感じやすくなります。つまり体調によって、症状が悪化したり軽減したりすることがあります。
また、食道括約筋の圧を下げてしまう薬があります。高血圧の治療に用いる薬(カルシウム拮抗薬)や狭心症薬(亜硝酸塩)は括約筋を緩める作用があるため、薬の作用として逆流症状が生じることがあります。
最近はピロリ菌の除菌治療のために逆流性食道炎が増えてきています。ピロリ菌除菌治療は、胃癌を予防するために行われます。ピロリ菌感染が慢性胃炎を招き、胃の炎症組織から癌が発生することがあるためです。ピロリ菌は強い酸性環境で生存するために、アルカリ性であるアンモニアを分泌することによって胃酸を薄める作用があります。除菌治療を行うとアンモニアもなくなるため、除菌前より胃酸の働きが強くなります。そのため、逆流性食道炎になりやすい環境となります。

検査

診断逆流性食道炎は問診である程度診断することができます。以下の12個の質問について、「ない=0点」「まれに=1点」「時々=2点」「しばしば=3点」「いつも=4点」で答えます。全ての質問に答え、点数を合計して8点以上の場合は逆流性食道炎の可能性が高くなります。(なお、7点以下でも逆流性食道炎の可能性はあります。)

質問 ない まれに 時々 しばしば いつも
1 胸やけがしますか? 0 1 2 3 4
2 おなかがはることがありますか? 0 1 2 3 4
3 食事をした後に胃が重苦しい(もたれる)ことがありますか? 0 1 2 3 4
4 思わず手のひらで胸をこすってしまうことがありますか? 0 1 2 3 4
5 食べたあと気持ちが悪くなることがありますか? 0 1 2 3 4
6 食後に胸やけがおこりますか? 0 1 2 3 4
7 喉(のど)の違和感(ヒリヒリなど)がありますか? 0 1 2 3 4
8 食事の途中で満腹になってしまいますか? 0 1 2 3 4
9 ものを飲み込むと、つかえることがありますか? 0 1 2 3 4
10 苦い水(胃酸)が上がってくることがありますか? 0 1 2 3 4
11 ゲップがよくでますか? 0 1 2 3 4
12 前かがみをすると胸やけがしますか? 0 1 2 3 4

逆流性食道炎の確定診断は胃内視鏡で行います。胃と食道の境界(胃食道接合部)に炎症があるか否かを評価します。炎症がある場合、その程度を5段階で評価します。また、所見が無くても逆流性食道炎と同様の症状が出ることがあります。これを非びらん性胃食道逆流症(NERD)と言います。逆に、症状が無くても胃内視鏡検査で炎症所見を認めることもあります。特に、高齢者では重症の食道炎を認めても症状が出にくいことがあります。

治療

逆流性食道炎を治療する目的は二つあります。一つは、不快な症状を軽減し生活の質を高めることです。もう一つは合併症を予防することです。強い炎症があると、例え自覚症状が無いとしても貧血や出血、食道の狭窄、またバレット食道という食道組織の変化から食道癌に発展する危険性があります。逆流性食道炎は適切な診断と治療がとても大事です。逆流性食道炎の治療は、生活習慣を改善することと薬の治療があります。

生活習慣の改善

食事

  • 脂肪の多い食事、甘いもの、柑橘系の果物で胸やけ症状が出る人がいます。確認して当てはまる場合は控えましょう。
  • 夕食は早めに済ませましょう。少なくとも就寝3時間前からは食べ物を口に入れないようにしましょう。遅く食べると寝ている間に逆流しやすくなります。

運動、姿勢

  • 激しい運動(全力疾走や強い負荷のかかる筋トレ)は控えましょう。
  • ベルトやコルセットでお腹をきつく締めることは控えましょう。
  • 背筋を伸ばしましょう。

睡眠

  • 寝る時は高めの枕を使って、頭位を挙上しましょう。

その他

  • 肥満は逆流症状を招きやすいです。減量を心がけましょう。
  • 喫煙も症状を招きやすいです。肺癌やその他のリスクも考えてタバコは止めましょう。

薬物治療

逆流性食道炎の重症度は、食道がどの程度胃酸に曝露されるかによります。したがって、治療はどれくらいしっかりと胃酸の分泌を抑えることができるが大事です。食道の酸性度を下げるために強力に、かつ出来る限り長い間、胃酸の分泌を抑えることを治療の目標とします。現在、様々な胃酸分泌抑制薬を治療に用いることができます。症状に応じて、薬を使い分けます。

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